If歴史アナキスライヒ

　11月5日勅令は、1916年11月5日にドイツ帝国?皇帝ヴィルヘルム2世?とオーストリア＝ハンガリー帝国?皇帝フランツ・ヨーゼフ1世?の連名で宣言されたポーランドの主権回復に関する法令である。

　この勅令は第一次世界大戦でドイツがロシア領ポーランド地域を解放するまでに存在したポーランド議会王国?を解散させ、新たにポーランド王国を創設することを約束したものである。

　19世紀初期のナポレオン戦争でフランスの傀儡国として存在したポーランドは、終戦以降再びドイツ・ロシア・オーストリアの三国によって分割されることがウィーン会議で決定した。ウィーン体制下でのポーランドにはロマノフ朝との名目上の同君連合であるポーランド立憲王国という地位が与えられた。しかし次第にポーランドの憲法はクレムリンに蔑ろにされ最終的には民族的な弾圧を受けるようになった。ロシア国内でのデカブリストの乱に影響してポーランド立憲王国は1830年に廃止された。こうした中でポーランドでは1830年の十一月蜂起、1848年の諸国民の春、1863年の一月蜂起など民族運動が活発に行われていた。

　1914年、第一次世界大戦が勃発するとポーランドは東部戦線の主戦場となった。当初ロシア軍によるオーストリア侵攻によって同盟軍は苦戦を強いられたが8月のタンネンベルクの戦い?以降、戦局は逆転し1915年5月から始まったゴルリッツ＝タルヌフ攻勢?によってドイツ軍はロシア軍を大きく後退させることに成功した。

　ロシア軍の撤退によってほとんどのポーランド領土はドイツ軍によって占領されることとなった。当初ドイツはポーランドについて当時のドイツ宰相テオバルト・フォン・ベートマン・ホルヴェーク?は、ポーランド国境地帯と称したポーランド領土30,000km2をドイツ帝国に編入し、その地域に居住するポーランド人やユダヤ人を東方に移住させようと画策した。手始めとして1915年にワルシャワ総督府を設立した。首脳部は一連の民族浄化後その地域にドイツ人が定住することを計画していた。1914年の9月にベルリンで会議が行われた際にこの計画は9月計画と呼ばれ、皇帝ヴィルヘルム2世もこの計画に賛同したとされる。

　しかし9月計画はヴェルダンの戦い?でドイツが甚大な損害を出したことや、ホルヴェークの政敵であるエーリヒ・ルーデンドルフ?の影響下にあるポーランド総督ハンス・ハルトヴィヒ・フォン・ベーゼラー?に反対されたことで白紙となり、ポーランドには独立国家が設立されることとなった。

　ドイツはさらなる総力戦体制の構築のためにポーランド人の反ロシア感情を利用しようとし、その対価として独立国家の地位を与えた。1916年11月5日、ドイツ・オーストリア＝ハンガリー両皇帝の名の下に勅令が発布された。しかしながら本勅令はポーランドに関する主権について具体的に明言しておらず、結果としてドイツはこの隙をついて傀儡的な制限を樹立することができた。

　とはいえ百年ぶりにポーランドに独立国が与えられたという事実はポーランド民族の悲願であり少なからず好意的な印象を与えた。勅令を受けて大戦勃発以前のポーランド議会王国及びドイツ軍政によるワルシャワ総督府並びにオーストリアによるルブリン総督府の権限は1916年12月6日に正式にポーランド臨時国家評議会?に移行された。暫定評議会議長にはワツワフ・ニエモヨフスキが選出され、後にポーランド全権を掌握することとなるユゼフ・ピウスツキ?が軍事委員の代表となった。なおピウスツキの設立したポーランド軍事組織?は評議会に編入された。

　臨時国家評議会の創立に関わらず、ピウスツキ含めポーランド民族運動の中心的な政治家は、勅令についてポーランド国家の建設がドイツはによるミッテルヨーロッパ計画?の一環に過ぎないと考えドイツ皇帝に反抗した。結果として、1917年に発生したポーランド宣誓危機?によって議会はさらにドイツ色の強いポーランド摂政評議会?に置き換えられた。

　前述したように本勅令はポーランド国家創立というよりも、ドイツによる東方植民計画である「レーベンスラウム?」の一環であるという側面が強いことは明らかであり、本当の意味でのポーランドの独立は達成されていないというのが一般的な解釈とされる。1917年クロイツナッハ会談?とベルリン会議?で方向転換されたようにドイツによる西部ポーランドへの新たな植民計画は同盟内でも合意されており、ドイツが結果として崩壊しなければポーランド国内のドイツ化が進められたことは容易に想像できる。